年金問題 5000万件不明記録

年金問題５０００万件の不明記録について。


「５０００万件の記録を１年後に名寄せ完了」

　自民党が参院選に向けて、５月末に作成した年金問題を解説したチラシには、年金記録漏れ問題の対策として、こう書かれている。

　「名寄せ」とは、本来、銀行などで個人が持っている複数の口座を一つにまとめる時などに用いられる言葉だ。年金問題では、転じて、一人が持っている複数の年金納付記録を一つの基礎年金番号に統合する意味で使われてきた。

　「１年で全部を統合することは無理なんだが、まいったな」

　厚生労働省幹部は自民党のチラシを見て頭を抱えた。１年間で５０００万件の記録がすべて統合され、だれのものか判明するように読める表現だったからだ。

　政府が１年間で完了すると約束しているのは、コンピューター上で、約５０００万件の不明記録と約１億人の年金加入者・受給者のデータ（氏名、生年月日、性別）を突き合わせ、可能な範囲で持ち主を特定することだ。だが、社会保険庁の入力ミスで、氏名や生年月日などが間違っているデータが相当数あるとされる。

　与党は５月末に年金時効撤廃特例法案を国会に提出。柳沢厚労相は４日、記者会見を行い、法案以外の内容も含めた総合対策を発表した。「保険料納付の領収書がない人も年金を受け取れるように、公平な審査を行う第三者委員会を設置する」などが柱だ。

　参院選の逆風を懸念する首相官邸や自民党からは、「一日も早く不安を解消する対策を考えてくれ」という矢のような催促が厚労省に寄せられていた。松岡農相の自殺や安倍内閣の支持率低下も、政府・与党の焦りに拍車をかけた。

　「突貫工事」で作成された対策には「いつまでかかるのか、わからない対策も含まれた」（自民党中堅議員）。コンピューター上の照合でだれの記録か判明しなかった記録について、政府は「コンピューターの年金記録と、市町村が保有する手書き資料などを照合する」としている。だが、手書きの資料を一件一件当たるという膨大な調査を、どういう態勢でいつまでに実施するのか、何も決まっていない。

　一方、民主党は、〈１〉年金記録統合の際は、基本的に受給者の言い分を尊重し、言い分を否定する場合、社保庁側が証拠を示す〈２〉受給者らから申し出を待つだけの「申請主義」の見直しを検討する――などを盛り込んだ被害者補償法案を今国会に提出している。

　これに対し、自民党は「民主党はいつまでに何をするかという具体策を示していない。不安をあおるだけだ」（中川幹事長）と批判する。受給者の言い分を聞くことは当然だが、「きちんと審査をしないと、保険料を払ったふりをする偽装犯罪が起こりかねない」との懸念もある。

　記録漏れ問題の拡大を受け、参院選では、自民、民主両党とも年金問題を大きな争点に位置づけることになった。両党の宣伝、中傷合戦は過熱するばかりだ。

　「与野党とも、選挙を意識して大盤振る舞いに走り、国民不在の議論になっている。『政争の具』にするのでなく、何が悪かったのか、どうすれば効率的に補償できるかなどについて、真剣に話し合うべきだ」

　富士通総研の渥美由喜（なおき）主任研究員は、こう主張する。

◇

　（この連載は、社会保障部　石崎浩、小山孝、政治部　湯本浩司が担当しました）

（2007年6月7日  読売新聞）

読売新聞より引用


５０００万件の不明記録は社会保険庁のずさんな管理体制にも原因があるという。
基礎年金番号統合によってコンピューターを使っての事務作業が行われるようになり、タイプミスや職員の怠慢などが原因で年金の被保険者の個人情報が一致せず、不明となっているということだ。

当時の職員は年金記録１００件の作業につき２０件から３０件はミスがあったことも述べている。

さらにコンピューターの導入により、事務作業の内容がかわりその対策として1日に３時間の登録作業など規制が敷かれていたという。